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街・町・まち物語(1) 天才マンガ家は堂島から誕生した

2017.12.01

わたしたちが暮らし、働く街には意外な歴史があったり、人々の思いが隠されています。関西がもっと活力ある都市によみがえってほしいーー。そんな願いから『建設ニュース』はマスコミで活躍した執筆陣に”まち探偵”になってもらい、町角に埋まった秘話やエピソード、地名の由来を掘り起こして書いてもらうことにしました。「おもろい人たち」のインタビューもあります。新企画のコラム『街・町・まち物語』をご愛読ください。

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JR大阪駅に近い四つ橋筋沿いに地下2階地上23階建ての事務所・商業ビル「堂島アバンザ」(大阪市北区)が建っている。2000年に竣工した「緑と水と光のビル」とうたったオフィスビルだ。

堂島アバンザ

渡辺橋から桜橋まで四つ橋筋のわずか500㍍はかつて「新聞社通り」と言われ、大阪生まれの新聞である朝日、毎日、産経の三紙が並んでいた。毎日新聞大阪本社の跡地に建てられたのが「堂島アバンザ」で、正面の広場に石造りのモニュメントが立っているが、新聞社の玄関を残したものである。

玄関

1945年12月のある日、日本が太平洋戦争で敗けてわずか3か月後、焼け野原となった大阪駅周辺で焼け残った数少ないビルの一つ、6階建ての毎日新聞社の前に17歳の少年が立っていた。黒の学生服を着て、風呂敷包みを提げた少年はビルを見上げてためらっていたが、意を決したように石造りの玄関を入っていく。

受付で言われた通り、階段を上がって2階に行くと編集局は記者たちが忙しそうにしていた。「学芸部」という看板がぶら下がった横を通ると、怖そうなお姉さんの記者がジロっと顔を向け、その隣では品の良いおじさんが背筋を伸ばして鉛筆を走らせていた。あとで聞くと、後に日本を代表する小説家になる「白い巨塔」「不毛地帯」の山崎豊子と、「敦煌」「孔子」などで知られる井上靖だった。

一番奥の「少国民新聞(後の小学生新聞)編集部」で待っていたのが程野繁夫という温厚そうな編集長だった。少年が風呂敷包みから出したマンガをパラパラとめくると、しばらく腕を組んでいたが、こう言った。「四コママンガって描いたことあるかい?一度描いて持ってきてごらんよ」

少年は一目散に宝塚の自宅に帰ると、うんうん言いながら一睡もせずにこたつでマンガを描いた。翌朝、やっと出来上がった5枚を手にして赤く腫らした目で再び堂島に行く。

翌46年の元日は朝から粉雪が舞う寒い日だった。待ちきれない少年は早朝に宝塚から阪急電車に乗って梅田に出て新聞社に行き、少国民新聞を手にする。そこに少年の連載マンガが始まるという社告が載っていた。

社告

「マアちゃんの日記帳」の連載はこうして4日から始まった。言うまでもなくこの少年とは手塚治虫で、天才マンガ家のデビューだった。

マアちゃんの日記帳

敗戦後の何もない時代、明るい話に飢えていた子どもたちは新人の少年マンガ家の作品に飛びついた。3月末までに73回の連載を終えると、その後も「AチャンB子チャン探検記」(73回)、「グッちゃんとパイコさん」(43回)と連載を引き受け、どれも人気を呼んだ。描いては毎日のように堂島に足を運んだ。

すっかり自信を持った手塚だが、まだマンガ家になるかどうか迷っていた。というのも、今と違ってマンガ家はまともな職業とは見られていない時代で、食べていけるかどうかもわからない。それに手塚は大阪大学付属医学専門部で学ぶ医学生だった。医師の免許を取ってからもしばらくは二足のわらじを履いていた。

それでもやはりは諦めきれない手塚の背中を押したのは母親の文子である。「あんたの本当に好きな道をやりなさい」の一言で決断して上京したのは27歳。四谷の八百屋の2階の間借りからのスタートだった。

恩人の程野編集長に贈った色紙がある。日付は48年8月8日となっている。そこには手塚の主要なキャラクターたちが生き生きと描かれている。

程野色紙

「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」「ブラックジャック」をはじめ生涯に700タイトル、15万枚の作品を描き続けた手塚が亡くなったのは、昭和から平成に変わった年の翌月の89年2月9日、60歳の若さだったが、死んで28年、今なおその人気は衰えていない。2018年は手塚の生誕90年だ。各地でさまざまなイベントが予定されているという。

手塚治虫

さて、「堂島アバンザ」の裏にモダンなデザインのお堂が立っている。「堂島薬師」と呼ばれ、推古天皇の時代に源を発する地元の守り神で、お参りする北新地のおネエさんたちも多い。「御堂のある島」というのが地名の由来になった堂島はスピリチュアルな場所なのである。手塚少年が最初に持ち込んだ作品が「幽霊男」だったというのもどこか因縁めいている。 =文・ATOM

堂島薬師

2017.12.01

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