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街・町・まち物語(13) 今、図書館が面白い!(関西の最新図書館事情)

2018.06.01

「静か、真面目、暗い、堅ぐるしい」。女子大生たちに聞いた図書館のイメージだ。中には「息が詰まる」「自習室みたい」という声もあった。確かに話し声がせず、静まり返った図書館が多く、必要がなければ行く機会もない。もう何年も図書館に足を運んでいないという方も少なくないのではないだろうか。しかし、”本離れ”と言われる中で、こうした”常識”を打ち破る動きが大学や自治体、企業、喫茶店などで起きている。共通するキーワードは「楽しい、おしゃれ、癒される」だ。新しい図書館づくりへの挑戦を紹介する。

【近畿大学ビブリオシアター】

写真①

『ユニークな大学図書館』

学生数、受験者数とも日本トップクラスの近畿大学。近鉄大阪線の長瀬駅から徒歩10分にある東大阪キャンパス(東大阪市小若江)に昨年春オープンしたのが5棟からなる『アカデミックシアター』だ。その中心が地上2階建ての5号館にある『ビブリオシアター』で、中央図書館の蔵書150万冊のうち7万冊を配置した”分館”だ。「知の実験劇場」と名付けた通り、大学図書館とは思えない斬新さと工夫がある。

”知の巨人”と言われる『編集工学研究所』所長の松岡正剛氏をスーパーバイザーにして作っただけに、いたるところに仕掛けと秘密がある。1階フロアは「ノア33」と名付けられている。キリスト教の旧約聖書に出て来る「ノアの方舟」の「ノア」だ。ここに配置された3万冊の本が「知の方舟」というわけで、宇宙から地球へ、動物から人間へ、物質から文化へと思考が進むように関連づけられたゾーン展開がされている。したがって本の並べ方は一般の図書館の十進分類法をとらず、大学独自の分類法にしている。

2階フロアの名称は「ドンデン」。「知のどんでん返し」を起こさせるという4万2000冊が並び、実にこのうち2万2000冊がマンガ本で、残りは文庫本や新書本。これらが「ホラー」「恋」「笑いとオチ」「神と悪魔」など、大学図書館とは思えない32のテーマに分類されている。アカデミックシアター事務室長の岡友美子さんによると「学生たちの想像力や発想力を刺激しようという試み」だそうで、DVDも2000本を揃えている。思い思いの姿勢でソファに座ったり、時には寝転んで読んでいる学生たちの姿はここならではだろう。

【近畿大学ビブリオシアター】

写真②

日本の大学では初めて「CNNカフェ」も入っていて、CNNニュースが常時流れる大型スクリーンを観ながら学生たちはホットドッグをかじりながら語り合っていた。

ライブラリー棟に隣接する別棟の『ナレッジフィールド』には2400席の自習スペースがあり、なんと24時間使えるというからすごい。ここの利用は教員や学生が中心だが、近隣に居住・勤務している市民や近大の公開講座を受講者した人にも公開している。また事前に申し込めば施設見学は可能で一見の価値はある。

『挑戦する公共図書館』

地域の公共図書館でもチャレンジが始まっている。経費節減と利用率の向上をはかるため、図書館業務の外部委託や指定管理者制度の導入による”民営化”を進める自治体が増えていて、魅力ある図書館づくりの知恵比べの時代に入っている。成功例の一つが兵庫県明石市の『あかし市民図書館』だ。

【あかし市民図書館内】

写真③

それまでの図書館をJR・山陽電鉄明石駅前にできた複合商業施設『パピオスあかし』4階に移設し、開館1年で来館者100万人を達成して話題を呼んだ。「暮らしに+α」をというコンセプトで、ゆったりとしたスペースと清潔感、コーヒーラウンジまで備え、同市が進める「住みたいまち」づくりの中核に置いている。自動貸出・返却機の設置、電子閲覧室をつくるなどIT化を進める一方で、フロアマネージャ―を配置して来館者へのきめ細かい対面サービスにも力を入れている。

拡大読書器、音声読み上げ機、デジタル録音図書(デイジー図書)再生機などを備えたユニバーサルサービスや、障がい者・高齢者向けに本の宅配までするサービスぶりだ。

特に目につくのが幼い子ども連れのお母さんの姿だ。児童書エリアは広く、充実していて、清潔願望のお母さんのために「書籍消毒機」まで設置してある。同じ建物内には「親子交流スペース」や「子育て支援センター」「こども広場」、中・高校生対象の「ユーススペース」もあって、これらが連携し合っているのが成功の秘密なのだろう。

「返却期限無し」というユニークな図書室も登場している。堺市美原区にできた『まちなか文庫』だ。区役所4階のエレベーターホールの空きスペースに書棚を置いただけの児童対象のミニ図書室だが、発想がユニークだ。

【まちなか文庫】

写真④

実は区役所に隣接して区の図書館がある。もちろんそこには児童図書スペースがあって5万冊近い児童書が揃っている。それなのにどうして隣りに図書室をつくったのか。

企画総務課の中井崇文さんの説明はこうだ。文部科学省が行った「全国学力・学習状況調査」で、平日に授業以外で読書を「全くしない」と答えた美原区の小学6年生は全国平均を10㌽も上回っており、どうしたら子どもたちを読書に導けるかを関係者で話し合ってきた。「図書館はハードルが高い」という声が多く、それならふらっと立ち寄れる気楽な場所に本を置いてみようと考えたという。

面白いのは図書室づくりを区民運動にしてしまったことだ。広報紙や掲示板で不要になった本の寄贈を呼びかけ、コミュニティーセンターなどに段ボールで作った回収箱を置いたところ、予想を大きく上回る2500冊が集まった。中にはわざわざ購入して寄贈した新本もあったという。

今はこのうち650冊を並べているが、分類ラベルは貼っていない。貸し出し・返却を含め本の管理は一切せず、貸し出し期間も無期限で、借りるのも返すのも本人次第というのだ。中井さんは「それが、大半はきちんと返却されていて、本が破れたり汚されたりするのではという心配は杞憂だった」と話している。

『企業・マンションの知の装い』

JR京都駅八条口の斜め前に建つワコール新京都ビル。その1階にできたのが『ワコールスタディホール京都』だ。その名の通り、企業による一種のカルチャースクールなのだが、下着メーカーらしく、「身体」「感性」「社会」の”美”をテーマにしたおしゃれ感覚抜群の施設になっている。1階には「ライブラリー・コワーキングスペース」があり、蔵書数はまだ目標の半分の4000冊とけっして多くはないが、見ているだけで楽しくなる。

【ワコールスタディホール】

写真⑤

ブックディレクターとして有名な幅允孝氏が選書から配置、書棚のしつらえまで監修し、世界中から集めた「美」に関する11のテーマで選書された本が並ぶ。ここでも分類のラベルは貼っていない。隅々にまで鋭い感性が感じられ、刺激を受ける。「ターゲットは20代から30代の女性」(プランナーの坂越圭名子さん)という。

幅氏はデジタル情報の社会にあってあえて不自由な本というメディアに注目し、作り手の「全力と最善」が宿る本を、手で持ち、めくり、目で読む、そこに肉体感覚を通した精神の受け渡しが行なわれ、「化学反応」が起きるのではないかという。

書籍の閲覧のほかに自習スペースやミーティングスペースもある。スタディホールは会員制(月・年)だが、1日会員(有料)でも利用できる。

分譲マンションでゲストルームに図書室を作って”売り”にする傾向が出ているのをご存知だろうか。共有施設として設置するもので、マンションの高級感演出に一役買っているのだが、韓国はもっと先を行っている。300世帯以上の共同住宅では図書館設置が義務付けられ、閲覧席は6席以上、1000冊以上の蔵書を事業者は設置しなければならない。企業も同じで、従業員300人以上の事業所や6階建て以上の建物にはこうした施設をつくらなければならないという。

『静かなブームのブックカフェ』

一般の喫茶店との差別化をはかる”コンセプトカフェ”。その一つがブックカフェで、ゆったりとコーヒーを飲みながら好きな本を読める空間を売り物にしている。確かにコーヒーと本は相性がいい。本を中心にしたコミュニケーションの場にもなっている。

【大阪市内のブックカフェ】

写真⑥

ブックカフェには新刊書店との併設型、古本屋との併設型、閲覧のみの店などいくつかのパターンがある。大阪市北区のあるカフェは、利用時間は90分制で、いつも満席。絵本の横に縫いぐるみや植物の鉢も並び、若い女性の利用がほとんどで、店外に待ちの行列までできている。

京都市動物園内にできた図書館カフェもこれと同じ発想で、動物に関する絵本や写真類を中心に約6500冊が並び、イベントも開かれていて、親子連れが多い。

図書館は単に多くの本を所蔵して読んでもらう場所でなく、そこで何かを感じさせたり、人と人をつなぐ場としての役割を持つ時代になりつつあるのかもしれない。 文=ATOM

【予告】コラム「街・町・まち物語」は、基本的に第1、第3金曜日に掲載します。6月15日掲載の次回は、『悲しき海の女王』です。今年は瀬戸大橋開通から30年、明石大橋20年ですが、四国と本州を結ぶ巨大橋がどうしてできたのか、その秘話です。お楽しみに。

【コラム「街・町・まち物語」の過去記事一覧】

▽第12回「中小企業を支援する経営コンサルタント=澤村 文雄さん」(18年5月18日)

▽第11回「「幸・福」に学ぶ 2つのミュージアムを訪ねて」(18年5月11日)

▽第10回「なにわのプチクルーズ」(18年4月20日)

▽第9回「大阪再生は文化の立て直しから=池田 知隆さん(大阪自由大学理事長)」(18年4月6日)

▽第8回「甲子園、ネット裏の”熱闘”」(18年3月16日掲載)

▽第7回「大阪城のレジリエンス力」(18年3月2日掲載)

▽第6回「行列のできる居酒屋=立山 雅夫さん(飲食文化研究所代表取締役)」(18年2月16日掲載)

▽第5回「すみれと桜 タカラヅカの鎮魂歌」(18年2月2日掲載)

▽第4回「出た!大阪・梅田に”亡霊たち”が」(18年1月19日掲載)

▽第3回「お笑い芸人に学ぶ関西の街づくり=吉村 誠さん(元朝日放送プロデューサー)」(18年1月5日掲載)

▽第2回「不思議な『浪華(なにわ)の忠臣蔵』」(17年12月15日掲載)

▽第1回「天才マンガ家は堂島から誕生した」(17年12月1日掲載)

 

2018.06.01

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