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街・町・まち物語(24) 売上げを3倍!老舗の銭湯を復活させた若者=湊 三次郎さん

2018.11.16

今夏、地震や豪雨に見舞われた関西でも、被害を受けた何軒かの銭湯が廃業に追い込まれた。このコラムでは第18回に『挑戦する銭湯』を書いたが、そんな厳しい状況の中で、銭湯文化を残したい一心から、経営はまったく未経験、銭湯の「せ」の字も知らないのに廃業寸前の銭湯再建に挑んだ青年がいる。周囲の心配をよそに、あっという間に売上げを3倍に増やし、赤字を黒字に変えてしまったのが、京都・五条の「サウナの梅湯」の湊三次郎さん(28)だ。近く再生2号店として琵琶湖近くの銭湯の経営にも乗り出し、いずれ47都道府県すべてに銭湯を持つのが夢だという若者に”銭湯ビジネス”に賭ける熱い思いを聞いた。(聞き手:本社編集主幹 朝野富三)

写真①湊三次郎さん

『復活の秘けつ』

──この世界に飛び込んでわずか3年での復活劇、お見事!

「JR京都駅から歩いて15分ぐらいの五条楽園にあります。昔は有名な遊郭地で、創業は明治時代と聞いています。住む人が減り、お客さんも高齢化していて、廃業するらしいと聞いて、やらせてもらったのです。聞くと1日の入浴客は平均60人ぐらい、毎月20万円ほどの赤字でした。賃貸契約なので、集客増につながるような大きな設備投資はしていません。それでもボイラーの改良などが必要だったので、大半は親から借り、500万円ほどかけてリニューアルしました。ありがたいことに今は平均190人ぐらいに増え、月次利益で最高110万円出たこともあります。年商で3000万円ぐらいでしょうか」

【人気の「サウナの梅湯」】

写真②人気の「サウナの梅湯」

──最初から勝算はあったのですか?

「事業の経験はゼロですし、銭湯は好きでしたが、経営のことはまったくわかりませんでした。ですからすべて手探りでやってきました。ただ、食べていけるようにはしたいと考え、手取りで30~40万円、留保金として10万円、せめてそれぐらいは確保したいと考えていました。思っていた以上に上手くいったなというのが正直な気持ちです」

──上手くいったのは何が理由でしたか?

「考えられることはすべてやりました。上手くいったものも、いかなかったものもありますが、大きく分けると”ほとんどおカネのかからない努力”と”おカネがかかる努力”があり、資金がないので、基本はおカネをかけないでできることが中心でした」

【タイル張りの浴室】

写真③タイル張りの浴室

──具体的には?

「難易度が一番低い取り組みとしては、毎月1、2回『梅湯新聞』をつくりました。梅湯であったことや告知、近所の話題などを書いて、ラミネート加工したものを浴室内のタイルに貼り付けたのです。お客さんはお風呂ではすることがないので、けっこう読まれます。ラミネーター購入費が1万円、あとは新聞1枚の制作費20円だけです。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を使った情報発信、特にツイッターが効果があり、情報が広がっていきます。ほかにはメディアの取材を積極的に受けるとか、一見さんとの会話を大切にするなどですが、どれもコストゼロです。要は自分のやる気がすべてでした」

──おカネのかかる方は?

「朝風呂を始めたり、営業時間を延長しました。当然、その分、お客さんは増え、1時間当たりの客は以前が8人で、今は13・1人になりましたが、その分、人件費や光熱費がかかります。ほかにはスーパー銭湯に比べて銭湯のシャワー圧力が弱いので、圧力を強くしましたが、シャワーの取り替え費用や燃費がかさみます。固定費はかかりますが、シャンプーやボディソープも置くことにしました」

『苦労したこと』

──どれも上手くいったわけではなかった?

「もちろんです。ビジネスモデルがないので、ともかくやってみる、それでダメだったらまた違うことをやってみるという試行錯誤の連続でした。お風呂がなくて入りに来るご近所さんはともかくとして、ファンをつくっていくことが一番重要だと思ったので、一見さんでもいいので呼ぶ工夫をいろいろ考えました。月1回は定休日に音楽ライブなどのイベントをしています。自前でやる場合と場所貸しする場合があり、平均したら40人ぐらいは来てくれます。あとはPR用のチラシやリーフレットをつくってポスティングしたり、近くのお店や宿泊施設に置いてもらいました」

──困ったこともあったとか。

「一番は、常連客さんと新規客さんのトラブルでした。地元住民などの常連客は全体の7割ほどです。残りが新規や一見さんで、泊まったゲストハウスから聞いて来る外国人もけっこういて、全体の8%ぐらいにはなっています。常連客が新規客に風呂の入り方や洗い方にあれこれ注意して、口論になるのです。その度に僕が出て行って、双方の話を聞いて……これがけっこうあります」

【どこか懐かしい番台付近】

写真④どこか懐かしい番台付近

『どうして銭湯なのか?』

──銭湯の何がそんなに魅力だったのですか?

「高校生の時に生まれて初めて銭湯に入って衝撃を受けました。面白いなと。今までに全国で700軒ぐらい、京都だけでも180軒ぐらいは銭湯を回っています。大学生になって『銭湯サークル』をつくったのです。一応30人ほどは集めたのですが、実際に活動したのは僕一人でしたけど……。大学を出てアパレルメーカーに就職しました。しかしすぐにここは自分の居場所じゃないなと思い、10カ月で辞めてしまいました」

──それから銭湯に。

「会社を辞める時はその後、どうするか特に考えていませんでした。何をするかあれこれ考えているうち、銭湯が好きなんだと改めて気づき、何か銭湯をサポートするようなことやNPO(非営利団体)を立ち上げようかと考えていたのです。そんな時に、以前行ったことのある『梅湯』が閉めるらしいと聞いて、だったら僕がと思ったのです。ですから初めから経営をしようなどと考えていたわけではなかったのです」

『ビジネス化の夢』

──2店目が近くオープンとか。ここはどうしてですか?

「大津市の膳所にある銭湯です。ここも厳しい状況に置かれていて、これまでの3年間のノウハウを活かしてやってみたいと思っています。700万円ほどかけてボイラーを取り替えたりします。ここでは、僕はあくまでサポートに回り、経営は別の人間にしてもらいます。これが成功するかどうかがこれから銭湯経営を事業化できるかどうかの分かれ道になると思っています」

【見学する外国人ツアー客】

写真⑤見学する外国人ツアー客

──いずれフランチャイズ的なビジネスを?

「僕のモットーは『日本から銭湯を消さない』なので、全国に広げていけたらいいなと考えています。でも、簡単なことではないとも思っています。梅湯の場合は運がよかった気がします。立地もいいですし。とにかく銭湯を”食える事業”にしなければなりません。銭湯という特殊性もあるのです」

──というと?

「新築で銭湯をやろうとすると、土地を別にしても建物とボイラーなどの設備で3億から4億円は必要で、償却するには20年ぐらいかかります。賃貸の場合は契約期間があります。梅湯は当初の3年の契約期間が終わり、5年の更新ができましたが、経営が軌道に乗ってもずっと続けられる保証はありません。それでもビジネスモデルを作ってみたいと思っています。これからもっとがんばります」

取材が終わって銭湯を出ると、外国人ツアー客20人ほどがガイドさんの案内で「サウナの梅湯」の見学に来ていて、ガラス越しに外からのぞいていました。裸でのスキンシップとコミュニケーションの場であり、衛生的で清潔好きと言われる日本人の文化のシンボルが銭湯なのかもしれません。

湊 三次郎(みなと・さんじろう)さん 1990年、静岡県浜松市生まれ。京都外国語大学を卒業。アパレルメーカーに勤務の後、「サウナの梅湯」を再建する。「サウナの梅湯」は京都市下京区岩滝町175、電話080-2523-0626、木曜日定休。

【予告】コラム「街・町・まち物語」は、基本的に第1、第3金曜日に掲載します。12月7日掲載の次回は、「灘五郷の挑戦」です。わが国最大の日本酒生産地である神戸市と西宮市にまたがる灘五郷。日本酒の消費量がピーク時の三分の一になった今、古い伝統を守りながら、若者、海外にと販路を広げようとチャレンジしている姿を取り上げます。お楽しみに。

【コラム「街・町・まち物語」の過去記事一覧】

▽第23回「天守再建で観光都市づくりを進めたい尼崎の”野望”」(18年11月2日)

▽第22回「「災害列島」の都市づくりを考える=正司 泰一郎さん(元宝塚市長)」(18年10月19日)

▽第21回「続・「お豊さん」を歩く」(18年10月5日)

▽第20回「「お豊さん」を歩く」(18年9月21日)

▽第19回「幻の「大坂湾戦争」を追う」(18年9月7日)

▽第18回「挑戦する銭湯」(18年8月24日)

▽第17回「あなたも戦争体験の伝承者に=福山 琢磨さん」(18年8月3日)

▽第16回「中之島 なにわの心意気」(18年7月20日)

▽第15回「大阪の“いのち”に向き合って54年=濵﨑 寛さん」(18年7月6日)

▽第14回「悲しき海の女王たち」(18年6月15日)

▽第13回「今、図書館が面白い!(関西の最新図書館事情)」(18年6月1日)

▽第12回「中小企業を支援する経営コンサルタント=澤村 文雄さん」(18年5月18日)

▽第11回「「幸・福」に学ぶ 2つのミュージアムを訪ねて」(18年5月11日)

▽第10回「なにわのプチクルーズ」(18年4月20日)

▽第9回「大阪再生は文化の立て直しから=池田 知隆さん(大阪自由大学理事長)」(18年4月6日)

▽第8回「甲子園、ネット裏の”熱闘”」(18年3月16日掲載)

▽第7回「大阪城のレジリエンス力」(18年3月2日掲載)

▽第6回「行列のできる居酒屋=立山 雅夫さん(飲食文化研究所代表取締役)」(18年2月16日掲載)

▽第5回「すみれと桜 タカラヅカの鎮魂歌」(18年2月2日掲載)

▽第4回「出た!大阪・梅田に”亡霊たち”が」(18年1月19日掲載)

▽第3回「お笑い芸人に学ぶ関西の街づくり=吉村 誠さん(元朝日放送プロデューサー)」(18年1月5日掲載)

▽第2回「不思議な『浪華(なにわ)の忠臣蔵』」(17年12月15日掲載)

▽第1回「天才マンガ家は堂島から誕生した」(17年12月1日掲載)

2018.11.16

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