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不動産鑑定士・福嶋千恵子が聞く「関西の不動産・建設業界人」⑫=奈良県五條市・太田好紀市長

2018.11.19

今回は民間企業ではなく、公共の立場から、人口減少・少子高齢化時代の街づくりについて、奈良県五條市(ごじょうし)の太田好紀市長にインタビューした。

①

――五條市について教えて下さい。

「五條市は、奈良県の一番南の市で、西は和歌山県に接しています。五條という名前の由来のとおり、紀州・伊勢・河内・西熊野・下(しも)の5つの街道が交わる交通の要衝であり、水運は吉野川があり、古くは奈良県南部の中心都市として栄えた市です。ハウス柿の生産量は日本一で、今年9月30日現在、人口は3万0882人、1万3625世帯が暮らしています」

「他の地方都市と同じように、五條市も人口減・税収減の問題を抱えています。これから日本全体で人口は毎年40万人程度ずつ減っていきます。特に地方では都市部より減少速度が速く、それに見合った財政規模の縮小・職員の削減は喫緊の問題です」

【5つの街道が集まる交差点附近】

②

――人口減少に対する対策は。

「五條市は奈良県内の12市の中で唯一私鉄の駅がなく、交通利便性が劣っていましたが、2017年に京奈和自動車道が橿原高田ICから五條北ICまで開通し、和歌山JCTまで繋がったことは大きな発展です」

「人口減少には自然減と若年層の転出が多いという2つの原因があります。まずは転出を食い止めないといけません。市外の大学に行っても帰ってくるように、子育て、教育環境、高齢者介護のうち、どれか1つに特化して特色のある街を作り上げたいと思っています。バランスよくすればよいと思われがちですが、すべてはできません」

「雇用の面では、観光と陸上自衛隊の駐屯地を誘致することで、関連産業の雇用を生み出したいと考えています。これは決して空論ではなく、38年にはリニアが奈良市附近を通って開通すると、京奈和自動車道で南下し、五條市・橋本市を通って、関西国際空港につながり、人・物の大きなネットワークができあがります」

「奈良県は全国で唯一陸上自衛隊の駐屯地がない県です。これは今まで新幹線などの交通の大動脈が通っておらず、空港もなく、海に面していないという立地面で配置されていなかったと考えられますが、リニア、京奈和自動車道、関西国際空港という交通ネットワークが現実的になった状況では、立地面での難点は解消されます。水害・土砂災害、東南海・南海地震などへの即座の対応のため、陸上自衛隊駐屯地の配置について国に要望しているところです」

【京奈和自動車道】 出典・国土交通省近畿地方整備局奈良国道事務所ホームページ

③

――観光はどのようなものがありますか。

「お金をかけて一時的に人を呼ぶことは簡単です。しかし、継続的な観光産業を育てるためには、一時的ではなく、今ある資源を磨き上げ、たくさんの方に来てもらい、またその方たちにリピート客になってもらい、リピーターが新しい客を連れてくるという好循環にならないといけません。1993年から2012年まで年1回『かげろう座』というイベントをやっていました。地元の人達が軒先に出店を出して、地元の物産や手作りの品を売るというイベントで、1日5-8万人の人出があり、大繁盛していました。しかし、人出を目当てに、他の地域の商売人が入ってくるようになり、当初の地域の人のためという目的から外れていってしまったために、20年目に止めることになりました」

「『柿の葉すし本舗たなか』の創業者の田中修司氏が17年6月末まで理事長を務められていた『NPO法人うちのの館』や蔵元の山本陽一氏などが中心となって、藤岡家住宅など古い町並みを活かした小さいイベントをコツコツやっています。田中氏や山本氏などの地元を愛するキーマンがいることは五條市の強味です」

【2012年のかげろう座の様子】 出典・自由市場かげろう座2012ホームページ

④

――太田市長は建設会社ご出身ですが、民間の経験は市の運営にどう活かされていますか。

「民間の会社はいかに受注し利益を上げるかということを中心に行動し、行政は市民の生命・安全を守ることが使命であり、目的が全く違います。しかし、民間の良いところは取り入れるべきです。例えば、予算に関して甘かった職員の認識を、民間と同じ厳しい目でチェックするように変える。『株式会社五條市』であれと言っています。今まで行政は儲けることはタブーでしたが、行政も儲けていいのです。市民から預かった税収・補助金収入の範囲内で行政サービスを行い、市が発注する工事費や物品費は交渉を行って削減する。私が市長に就任した後、2億円の予算規模で、5500万円の費用を削減させました。職員が変われば市民も変わり、五條市が変わると考えています」

⑤

――以前から議員・市長を目指されていたのですか。

「家業の建設会社を継ぐつもりで、工業高校・工業大学を卒業し、父の経営する会社に入りました。入社の翌年の85年に代表になり、土木・建設業の他に関連する建設機器リース業・運送業・測量など7つ別会社を作り、バブル期で時代がよかったせいもあり、何をしても上手くいき、楽しかったですね。その頃、経営から引退した父は西吉野村の村長選に出馬し、2回落選しました。本人が落選するだけならいいのですが、狭い村のことで、父を応援してくれた人達に迷惑をかけることになってはいけないと、父の代わりに西吉野村議会議員に出馬することを決意し、95年に当選したのが始まりです。人生10年一区切りと考えているため、3期以上は出馬しないと心に決めていましたが、西吉野村が五條市と合併したため、五條市議となりました。その後、市長に推され、対立候補は現職の市長で、誰も私が当選するとは思っていなかったのですが、タイミングよく当選し、現在2期目を務めさせていただいております」

――転機を教えて下さい。

「会社経営をしていた頃も色々な人との出会いが転機となりました。村議会議員選に出た時、市会議員選に出た時、市長選に出た時、それぞれ推してくれた人達との出会いがあったことが転機です」

「そして運よく当選したのは、父が村長選で落選したお蔭だと思います。父が当選していたら、議員になることもなかったし、市長にもなっていなかったでしょう。私が市長に就任した頃には父は他界していましたが、父や先祖が守ってくれているお蔭で私はここにいるのだから、人一倍やる気を起こさないといけないと思っています」

「座右の銘は『初心忘れるべからず』です。子供の頃から『偉くなったらなるほど頭を低くせよ』と教わってきました。力のある人はそれを見せてはいけません。市長は予算・人事権を握っているので、権力があります。しかし、それは私個人ではなく、市長という地位に伴うものです。そのことを忘れないために、毎朝出かける前に妻に言ってもらっています(笑)」

⑥

――最後に若い人達、市民の皆様へのメッセージをお願いします。

「今はリーダーシップを取れる人がほとんどいない。私達50代の人間が子供の頃は、学校では教師にどつかれ(殴られ)、柔道などの習い事では先生にどつかれ、家に帰っても親にどつかれ、そういう環境で大きくなってきて、負けるものかというハングリー精神がある。しかし、今の子供達に対して、教師や親は怒らない。どつくなんてもってのほかです。非常に良い環境なのですが、言葉を変えるとぬるま湯で育っているため、良い環境の時は能力を発揮しますが、一つ挫折した時に弱い。人に相談できず、自分で考えて行動もできない。次世代の人にはリーダーになれる人になれ、またリーダーを育てよと言いたいですね」

(おおた・よしのり)1984年3月大分工業大学土木工学科卒業、同年4月父親の経営する株式会社太田建設に入社、85年5月代表取締役に就任、95年4月西吉野村議会議員初当選、2002年6月西吉野村議会議長、2005年12月五條市議会議員、11年五條市長初当選、15年五條市長2期目当選、現在に至る。五條市西吉野町出身、57歳。

【インタビュー後記】

『怒る』(感情的)と『叱る』(相手の立場に立った指導)の違い。社長だった頃はワンマンで社員には感情的に怒っていたそうです。しかし、市民から選ばれた市長になったからには職員の合意形成が不可欠で、『叱る』(相手の立場に立った指導)ようになったとのこと。また、市長になってからは毎朝通学路に立って子供達に大声で声を掛け、始めは無言だった子供達も今では元気に挨拶をするようになったとか。人が変われば街が変わる。五條市が人口増の街になる日も遠くないかもしれません。

【筆者略歴】

ふくしまちえこ様01のコピー

福嶋 千恵子(ふくしま・ちえこ)1994年3月早稲田大学政治経済学部卒、2003年から不動産鑑定業界に従事。14年に輝づき不動産鑑定(大阪市北区)を設立、代表に就任。不動産鑑定の実績は1000件以上。「得意分野は相続や複雑な案件。お客様のニーズにオーダーメイドでお応えします」

2018.11.19

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