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風に誘われて、街へ(8) 晩秋の午後、近畿大学キャンパスのある街へ

2018.11.30

11月の初めに、何気なく新聞を読んでいて、中ほどをめくったら、いきなり全面広告の大きな文字が目に飛び込んできました。
「大阪のユニバといえば、近大やろ」
--えっ、何? どういうこと?――目線を下にずらすと、
紙面のセンターには、近畿大学の学生証をかざした笑顔の女子学生。
さらによく見ると、紙面の下段には、
「西日本最大級のKINDAI UNIVERSITY 年間パスを手に入れよう!」
なんと、推薦入試の出願受付開始の告知PRなのでした。

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思わず、「いや、いや、さすがにそれはないやろ、近大さん。確かにUNIVERの文字は共通してるかもやけど、大阪のユニバはやっぱりユニバーサル・スタジオJAPANやで」と
新聞に向かって突っ込みの声を出してしまいました。

で、ふと我に帰って気がついたのです。
「あっ、アカン、これってまんまと近大のPRにひっかかってる証拠やん」
悔しいなぁ、と思った私は、この機会に東大阪市小若江にある近畿大学キャンパスを訪れることにしたのです。
そんな訳で、今月の「風に誘われて、街へ」は、近畿大学(近大)のある街へ、と行ってみました。

近鉄・長瀬駅から大学西門へ

JR環状線の鶴橋で近鉄大阪線に乗り換えて、4つ目の駅が長瀬です。
改札口を出ると、すぐ目の前に「まなびや通り」と書かれたアーケード。
その表示の下に「長瀬駅前商店街」という字がありました。

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たくさんの若者たちが迷うことなく歩いて行くので、これに着いてゆけば間違いない。
歩いてるうちに、道端に見つけました、大阪名物「50円自動販売機おいなはれ!」

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いやぁ、これを見ただけで大阪の下町感覚がこみ上がってきて嬉しくなります。
ちなみに、「おいなはれ」は「おいでなさいませ・いらっしゃいませ」の意味ですね。

S字カーブの道を5分ほど歩いたら、通りの向こうに赤レンガの門が見えてきました。
そして、通りの左右には喫茶店や定食屋さんやラーメン店が連なっています。

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お昼時とあって、お店の前には学生たちが列を作って並んでいます。
「からあげ丼 380円」安っい!
飲食店のはざまには、ひさしぶりに見る「麻雀」の文字。
「おーっ、これぞ大学前の商店街!」
思いだせば40年以上も前、授業にはまともに出ないで、雀荘と定食屋さんが目的で大学に通っていた学生時代の私が、今ここを歩いているような気になりました。

近畿大学キャンパス内

赤レンガの弓状アーチの門が、近畿大学の西門です。

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キャンパスに入ると、正面にでかいビルの建物があり、左手には銀杏とポプラの並木道。
いかにも、大学らしい落ち着いた雰囲気が漂っています。
さて、このキャンパスのどこから、あの「近大の活力」が湧き出ているのでしょう。
実は、今回の私の旅の目的は、それを探り出すことにあったのでした。

近大のお正月PR広告は素晴らしい

私が「近大の活力」に注目し始めたのは、毎年のお正月に新聞に掲載されるPR広告でした。
テレビ番組のディレクターやプロデューサーを長年にわたり仕事としていた私は、番組を作る際に必要なタイトル命名や、
PRには欠かせないキャッチコピー作りもたくさん手掛けてきました。つまり、そこそこ自信があったのです。

が、しかし。

2015年お正月の新聞紙面の『マグロ大学って言うてるヤツ、誰や?』

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翌16年お正月の紙面の『近大発のパチもんでんねん』

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を見た時に、「うまいっ!」「これは凄い、まいった!」と一人で拍手しました。

それは、一見ポップで自虐的なフレーズの背後に、しっかりとした自己批評の精神と揺るぎない自己肯定の信条が潜んでいる、ことが見て取れるからです。
そしてなにより、大阪弁での主張が効いています。
「ことば」は意味を伝達するためだけにあるのではなく、情緒の交換をして仲良くなるためにあるものです。
そして、私たちがふだんの暮らしの中で使う「なまりを含んだ生活ことば」こそが、もっとも強い「ことば」なのです。
今あげた、二つのキャッチコピーに続くボディコピーの文章を読んでみると、これらの宣伝文句を作った人たちが「ことばと暮らし」について、とても素直で敏感な人たちであることが良くわかります。

案内していただいた、広報室の高橋智子さんと話をして、そこの秘密が一つ解明されました。
それは、これらの広告が、電通や博報堂といった大手広告代理店との共同作業ではあるものの、14名の近畿大学広報室のみんなの苦吟の産物である、ということでした。
やっぱり、「日々の暮らし」の中から出てくる「生活ことば」が一番強くてオモシロイ、という言語表現の原点をあらためて知らされた気がします。

アカデミックシアターという新しい空間

現在の近畿大学キャンパスのいちばんの売り、ということで、「アカデミックシアター」なる建物空間を案内してもらいました。
案内してくださったのは、岡友美子さん。名刺には「アカデミックシアター事務室・室長」と「中央図書館事務部・次長」さんとの二つの肩書きが併記されていました。
しゃべりながら一緒に歩いているうちに、その理由がわかってきました。
このアカデミックシアターという空間は、近畿大学流の「新しい図書空間」だったのです。
ロの字型に建っている1号館・2号館・3号館・4号館があって、それに囲まれた2階建ての建物、昔風に言えばちょうど4つの建物に囲まれた中庭に相当するところを入れたのがアカデミックシアターと呼ばれる空間。
4つの建物をつないでいるその中庭部の2階建てが「ビブリオシアター」です。

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2階建てのその建物は全面ガラス張りで、中が図書館になっています。
ですが、この図書館、私たちが知ってる図書館とはちょっと違うのです。
ふつうの図書館では、「1 哲学・宗教」や「2 歴史・地理」や「9 文学」といった十進分類法によって本が分類されて置かれています。
ですが、ここでは近大独自の「近大INDEX」なる分類テーマを作って本を選んで置いてあるんです。
そのインデックスは、[01・注目すべき個性たち][02・コスモスとユニバース]に始まり、[10・医療と健康と薬][11・アスリートをめざして]と続き、[20・売ります・買います・起こします]を経て、[33・近畿・大阪・全地方]に至るまでの33。
この分類が、とてもユニークで面白いのです。

建築には生活思想が現れている

そして、その分類の基になっている考えは、2階に上がってみると一段と良くわかります。
2階は、マンガを中心にして新書や文庫本の4万冊が分類されています。
その分類インデックスは、[01・文学をマンガする]に始まって、[13・犯人はこの中にいる]や、[19・目覚めたら超能力]へと続き、[30・食いしん坊の日常]を経て、[32・文化部が教えてくれること]へ、と至るのです。
各コーナーの配本は、例えば[22・恋する女の生きる道]では、少女マンガ家の大和和紀の『あさきゆめみし』というマンガ本の上の棚に田辺聖子の『源氏物語』が置かれていたり、横の棚には『平安女子の楽しい!生活』なる新書が置かれている、といった具合。

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これによって、この図書館が志向しているもの、がおのずと見えてきます。
それは、「歴史書」や「小説」や「マンガ」といったこれまでの分類思考にとらわれない、「現代的な知の連携」に他ならないのでしょう。

そして、本棚のまわりには、本をゆっくり読むための机や椅子はもちろんのこと、寝転ぶことのできるソファークッションや、とてもオシャレな「CNNカフェ」などのくつろぎ空間がたっぷりと配置されています。
さらに、本棚や読書スペースのあいだには、AIプロジェクトやまちづくりプロジェクトなどの産学連携や学生企画のためのブースが設けられていて、アカデミックの世界からビジネスの世界へと地続きになっている様が見て取れました。

まさしく、この「ビブリオシアター」なる空間そのものが、1号館・2号館・3号館・4号館という、それぞれの学問や業務の領域をつなぐ「知の連携のための空間」として設計されているのですね。
そして、その「知」とは決してエリート特権階級のものではなく、「食べて、寝て、働いて、お金を稼いで、生きている」一般大衆の、健全なる「欲求と知的好奇心」のことである、という確固たる思想が見えてきます。
中央の「ビブリオシアター」が2階建ての低層であること、その屋根はあたかも下町の長屋の瓦屋根の連なりのような形状であることは、設計者の「一般大衆」に対する限りないオマージュの現れ、なのだと感じました。
そして、近畿大学の活況の源は、「堂々たる大衆であること」の自覚と誇り、にあるのでしょう。

「建築とは、生活思想の空間化である!」を実感したひとときでした。

近大マグログッズのお土産品コーナー

帰りぎわに、学食と生協をのぞいてみました。
さすが「マグロの近大」です。生協の一角に、近大マグロから商品化された「マグロせんべい」や「マグロのめだまグミ」などを売っているコーナーがありました。
商魂、たくましい!

でも、ここに至るには長い年月があったんですよね。
近畿大学の水産研究所が、海で捕獲したマグロの稚魚を育てて研究を始めたのは1970年。そして、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功したのは2002年6月のことでした。
30数年の月日を必要としたのです。

パッケージのマグロの写真を見ながら私は、1980年に「ワイドサタデー」というテレビ番組で、白浜にある水産研究所にお邪魔して、いまだどうなるかわからない「マグロの完全養殖」に取り組んでいた研究員さんたちの仕事ぶりを1時間生中継したことを、なつかしく思いだしました。

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キャンパスを後にする時、ふり返ると、初冬の夕陽が銀杏とプラタナスの葉をうす赤く染めていました。
都会の街並みもいいし、商店街のにぎわいも好きなのですが、たまには大学のキャンパスといった、いつもとは少し違う時間が流れている場所もいいなぁ、と思ったものでした。

今回の旅で、ひとつだけ心残りだったこと。
それは、近大西門前にある「キッチンカロリー」という食堂で、名物と評判の「チーズオムレツ」を食べそこねたこと、です。

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帰りに食べようと思って食堂の前に立ったら、なんと「営業11時~3時」の貼り紙。
これは、「もう一度近大前においで!」という神のお告げなのかも知れませんね。
それなら今度は、受験生の波に紛れてやって来よう。
その時、私は、活力にあふれた18歳の青春を再発見するかも知れません。

※記事中の近畿大学広告画像は近畿大学HP「広告アーカイブ」から使わせていただきました。

吉村 誠(よしむら・まこと)1950年山口県生まれ。東京大学文学部社会学科卒。朝日放送テレビプロデューサーとして多くのテレビ番組や映画製作を担当。宝塚造形芸術大学教授を経て、現在は同志社女子大学・関西看護医療大学で非常勤講師を勤めている。おもな担当番組に「M-1グランプリ」、「晴れ時々たかじん」、「ワイドABCDE~す」、プロデュース映画に「血と骨」(監督:崔 洋一)、「秋深き」(監督:池田敏春)、著書に『お笑い芸人の言語学』(ナカニシヤ出版)。

2018.11.30

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